友達の輪696号(2024年11月3日発行)
書道家 平賀 翠溪(すいけい)先生へ
【本紙】 こちらで習字を教えるようになってどれくらいになりますか?
【平賀】(敬称略) 幸手はもう40年くらいになるかと思います。スタートは越谷ですがこちらの方は来年で50周年になりますね。教室は越谷で2ヶ所、幸手市、さいたま市桜区、そして、春日部にある松実高等学園などで教えています。松実高等学園で教えるようになったのは、荒川さんのお父さんがきっかけですね。彼は私の教え子でして、その縁で創立して2年目くらいにやってくれませんか?と頼まれたのです。それ以外ですと、水曜日の午前中に生涯学習で高齢者の方にも教えています。私は県と市の生涯学習指導者に登録していますので、その関係で依頼されたものです。
【本紙】 書道を本業でやってこられたのですか?
獣医の道を辞めて
【平賀】 そうですね。大学を卒業してすぐでした。高校時代は日大の付属で獣医学部の推薦を貰っていましたが、牛の浣腸の映像を見た際に「これはちょっと無理だな」と思ってしまったのです。獣医になりたかったというわけではなく、日大の推薦枠でどの学部にも行ける状態だったのです。それで担任の先生に小学校4年生からやっている書道のある国文学科に進みたいと相談をしたのです。それで日大付属から、小さい頃から書道で師事していた先生の系列の立正大学に進みました。立正大学は日蓮関係の大学ですが、先輩に書家であり新宿の戒行寺住職を勤められる星弘道先生という日本を代表する方もいらっしゃいます。大学の2年先輩に書家である吉澤石琥先生がいらっしゃるのですが、大学を卒業したあとに、学生を集めて合宿を開いたのです。私は4年生のときにその合宿に初めて参加したのですが、吉澤石琥先生が私を見込んでくださり、そのお父さんの吉澤鉄石先生に師事しました。鉄石先生は昭和の良寛様と言われる方で、晩年には読売新聞の半面にも掲載されていました。とても素晴らしい人柄の先生で、お会いしてすぐに師事することを決めました。書道においては吉澤三兄弟として非常に有名で、長男が石琥先生、次男が劉石先生、三男が鐵之先生です。鉄之先生も素晴らしく、二十人展にも選ばれています。鉄石先生には4人のお子さんがいて、3人は書の道に進みましたが、ひとりは銀行に勤めていました。それでも、私のことを息子のように思ってくださって、私のことを五男坊だと言ってくださいました。
【本紙】 どこかに就職されることなく、最初から書道の先生をされたのですか?
下積み時代
【平賀】 そうです。昭和51年の4月スタートで書道教室を開きました。越谷市で一番古いビルで自分でペンキ塗りをしたり、学校で使わなくなった机を貰って来たり、近所の金物屋で買ってきた鉄板で三角看板を作ったりしました。宣伝にしても、お金がないものですから、自分でチラシを作って、ポスティングをしました。指導対象としている層もなく大人から子供まで幅広く募集しました。初めての生徒とは今でも関わりがあって、60歳位になりますが大工さんをやっています。たまにうちの屋根を見てもらったりしています。教え子もたくさんいますね。埼玉県議会議員で活躍されている教え子もいます。
【本紙】 書で食べていくというのはあまりイメージできませんが?
【平賀】 まったく食べていくことは出来ませんでしたね。食事は3日間に1度だけで、それ以外は水だけという事もありました。最初の頃に助手としてお世話になっていた書道教室が貴重な収入源でした。それでも、下積み時代は大学を出て4年くらいでしたね。家内は大学の後輩で、26歳位の頃、やっと生活の目処が立ってきたこともあって、結婚することにしたのです。私は出身が岩手で、大学卒業のときに、岩手の私立高校から要請がありましたが、政治の中心は文化の中心と考えて、その話をお断りしたのです。田舎に引っ込んでしまうと、書の勉強や展覧会から遠ざかってしまうと考えたのです。父は教員で、書だけで食べていけるわけはないと反対されました。母も「高校から要請が来ているのになんで断るの」という感じでした。その心配も理解できましたが、それでも私は迷いませんでした。当時は不安もありましたが、結果的には自分の意志を押し通して良かったと思っています。
【本紙】 現状の書道人口はいかがですか?芳名帳などに筆で書けるのは素晴らしいですよね。
ユネスコ文化遺産
【平賀】 少子化や習い事の選択肢も増えましたが、ユネスコ文化遺産に日本の書として登録申請中ですので、それが通ってくれれば書道への関心が高まると思います。そうですね。冠婚葬祭の場には大抵記帳する場がありますから、そこで腰が引くことなくさっと書けるようになってほしいと思っています。私自身も書道がそういう場で役立ってくれるのが子供たちに対する願いですね。
【本紙】 書道教室に参加したい場合、どのようにすればいいですか?
【平賀】 幸手であれば、火曜と木曜の15時~19時で月6回となっています。学費は子ども(小学・中学)4600円になり、毎月の本代と半紙代も含まれます。大人は1000円増しで5600円です。年齢制限はなく、小さな子からお年寄りまで様々です。最年少は4歳ですね。その子も中学1年になって、大人の部に移り今でも続けています。小学校3年生から授業で書道がありますから、2年生位からが多い印象です。ご年配の場合はやろうと思った時が青春ですから、いつからでもいいと思います。86歳の方もいます。私が書道教室を始めた頃は大卒のペーペーでしたから、主眼に置いたのは「教えることは教えられること」でした。生徒さんがご年配の方だったら、人生の先輩でもありますから、こちらから教わることも多いと思います。逆に子供だったら、教えることによって自分の復習にも繋がると思います。
【本紙】 年賀状準備の季節が間もなくやってきますがやはり手書きですか?
【平賀】 私たちの世界では手書きでないと許されないところがありますね。実は私が年始に書くものがあります。それは、亡くなった先生の書斎に飾ってあった「人生五訓」というものです。「あせるな おこるな いばるな くさるな おこたるな」という五つの訓です。亡くなった先生の書斎に行った際にそれを見て、毎年書初めで書こうと決めたのです。
【本紙】 人生に大事な五訓ですね。では、お友達をご紹介ください。
【平賀】 東武団地の自治会でお世話になっている事務局の森本悦子さんをご紹介いたします。
【本紙】 ありがとうございました。地域の方々に書の魅力を広げてください。(平賀さんは奥様も書道家であり、学校を除く書道教室でご一緒に指導されています。学生時代から共に書道を学ばれ、今もご一緒に活躍されている姿は素敵ですね。)