2001年3月11日



初見 正晶さん 早いもので卒業式シーズンとなりました。それぞれの学びの窓からも喜びと期待が渦巻く今日この頃です。本日の友達の輪には三陽不動産(株)建築部長後藤弘さんからご紹介いただきました幸手市立図書館にお勤めの初見正晶さんにご登場願います。

幸手市立図書館
主任 初見 正晶さん
本紙取材 高木 康夫

【高木】こんにちは。後藤さんとはずいぶん永いお付き合いと伺いました。目が不自由なようですが、いつごろからなんですか?

【初見(敬称略)】はじめまして。後藤さんの奥様のお兄さんが、私の先輩にあたり学生時代からの長いお付き合いです。この住宅に昨年越してきたのですが、ここも後藤さんの紹介によるものです。目が見えないものですから、後藤さんには良い物件を見つけていただいたと感謝しております。私は以前から視力が弱かったのですが、右目は昭和五十三年に事故で網膜剥離を起してしまい失明しました。その後しばらくは左目だけで生活しておりましたが、緑内障になり残された左目も徐々に視力が低下してきたのです。医師からこのままでは失明する可能性が高いことを宣告され、視力を失ってからの生活に対応するために、平成二年に埼玉県のリハビリセンターで日常生活訓練を受けました。リハビリセンターに入った頃、少しだけ視力があったのですが、訓練後には完全に光を失っておりました。視力を失ってから約十年が過ぎました。

【高木】そうでしたか。医師からの宣告はどう受け止められましたか?

医師からの宣告に
       ショック

【初見】不安は感じていましたが、突然失ったものではありませんので覚悟は出来ておりました。しかし、医師から「だめだろう」という宣告はとてもショックでしたね。一時的でしたが本当に落胆しました。でも、気持ちを切り替えて、前向きに考えるようになりました。多くの友人に励まされ、支えられたことや、リハビリセンターの訓練もあったおかげで生活への自信が持てるようになったのでしょう。

【高木】それでも、視力を失っての生活は大変だったでしょうね。

慣れは禁物
   あてて安心

【初見】一番困るのは声を出していただかないと相手が分からないことです。「百聞は一見にしかず」と言いますが、見て解るものも説明を受けなければ解りません。また、「お茶どうぞ」と出されてもどこにあるのか解らないのですね。常に手探り状態です。歩くことひとつとっても、同じ道でも毎日が違うのです。例えば、お店の前にきれいなお花のプランターが出ていたりします。景観を美しくしようと思ってのことなのですが、点字ブロックでもないかぎり視覚障害者にとっては障害物になってしまいます。歩道に乗り捨てられた放置自転車や路上駐車の車は本当に危険です。ですから、「慣れは禁物」なのです。体調や天気、交通状況など、一人一人にとって毎日が違うのです。リハビリセンターで杖を使う訓練を受けた時、「杖をあてるつもりでふりなさい」と指導を受けました。杖があたることによって障害物が確認できる訳ですから、確認したことで安心が生れるのです。そして、少しずつですが勘が働くようになります。

初見 正晶さん【高木】盲導犬などは考えなかったのですか?

【初見】希望しても需要が多くて供給が間に合わないようです。盲導犬の訓練は一年間かけた厳しいものです。その後私達と一緒に一ヶ月半ほど生活訓練をします。人間と盲導犬との相性も必要なのです。たくさん育成されればうれしいのですが。
【高木】盲導犬育成のための基金等もありますね。ところで、趣味などは?

海外旅行に
   一人旅

【初見】旅行と音楽鑑賞、そして、読書です。特に海外旅行が好きで、独りで出掛けます。アジアの国々はほとんど回りました。独りでというと驚かれる方が多いですね。幸手にはガイドヘルプ幸手というボランティアの方々がいらっしゃるのですが、「毎日散歩がしたい」とか「買い物に一緒に行って欲しい」などの要望に応えてくれるのです。旅行の時には私もお世話になり、成田空港まで送迎していただきます。その後、空港から機中、目的地までは航空会社のアテンダントの皆さんが手伝ってくれます。また、現地では旅行代理店から手配していただいた添乗員がサポートしてくれるのです。旅先で一番最初に肌で感じることは国の臭いと体感温度、そして音です。景色は見えませんが、説明をされると想像できます。それから、料理が楽しみで、各国の味を十分堪能してまいります。生活環境はやはり日本が進んでいるように感じます。でも、私のような視覚障害者への接し方はとても自然です。日本人は「目が見えない」というだけで構えてしまっているように感じます。台湾の地下鉄に乗った時の事でしたが、乗ると同時くらいに「トントン」と肩を叩かれて、振り向くと「座りなさい」と誘導してくれました。あまりの対応の速さに驚きましたが、とても自然に伝わりました。日本でも都心などでは、歩いている時に「ガイドしましょうか?」と声をかけていただくことが多くなりましたが、まだまだ、構えてしまう方が多いのは事実ですね。

【高木】読書というと?

本が好きで
   図書館に

【初見】点字や朗読テープ、CDで読んでいます。今は「沈まぬ太陽」の四冊目を読んでいる最中ですが今月だけでも七冊読みました。私自身、本が好きで図書館に勤めて二十四年になりますが、最近は若者の本離れが進んでいます。子供たちも小学校三年生位までは保護者と買い物のついでなどに来館しますが、四年生を過ぎる頃から自立が始まり、夏休みの宿題などがあると来館する程度です。図書館を利用してもらう為に音楽CDも入れて有ります。CDはクラシックやジャズ、ロック、そして、落語やヒーリングなどのジャンルにわたり二、三千枚あります。蔵書も十三万冊近くあり、新刊も出てから二、三週間後には入りますし、朗読図書も増えております。最近ではファミリーで来られる家庭も多くなっていますよ。ぜひ、お越しください。

【高木】読書は心の旅行ですね。それでは、お友達をご紹介下さい。

【初見】草加市立病院で看護婦をされている谷古宇弘恵さんを紹介致します。谷古宇さんは四、五年前でしたが、助産婦としてアフリカで海外青年協力隊の一員として活動されてきた女性です。きっと素晴らしいお話が聞けることと思います。

【高木】ありがとうございました。

(現在お勤めの幸手市立図書館では、主任としてご活躍され、音声認識ワープロを駆使して文書の作成など業務をこなしていらっしゃいます。料理、洗濯や掃除もなんなくこなし、いつかヨーロッパに行ってみたいと、常に前向きにおっしゃるやさしさあふれる方でした。)

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