1998年5月31日



 藤色の5月も今日まで、水田の稲も緑色を増し、明日からは紫陽花やあやめの似合う水はだ色の季節です。今回の友達の輪には大杉ばやし保存会会長の田中義勇さんがペン習字の指導を受けているという印田衛さんにご登場いただきます。

幸手市公民館講師
橘書道会
会長 印田 衛さん
本紙取材 高木 康夫

【高木】こんにちは。田中さんからペン習字の先生と伺ってまいりました。

【印田(敬称略)】北公民館に書友クラブというペン習字を中心としたクラブがあるのですが、そこに田中さんも参加されています。昔は「読み、書き、そろばん」というように日本人にとっては書くこともひとつの文化として多くの人が取り組んでおりました。しかし、最近ではペンや筆をほとんど使わなくなっています.ペン離れはワープロなどの普及も関係するのでしょうが、それでも結婚式での芳名簿や不祝儀袋、年に一度の年賀状くらいきちんと手書きしたいという方々がクラブに参加しています。初めて入った人にはまず筆ペンで線を引く練習をしてもらうのですが、手が震えてまっすぐに線が引けないのです。震えが取れるまで線などを引いて筆ペンに慣れることがまず第一なのです。

小さい頃から
  書く事が大好きで

【高木】なるほど。いつごろから指導されているのですか?

【印田】私の実家はこんにゃくや氷の製造販売業を営んでおります。しかし、父が若くして病魔におそわれましたので、私も実家の仕事を手伝うことにしたのです。でも、小さい頃から書くことが好きだったので何か本格的にやってみたいという気持ちが常にありました。ちょうどその頃、市内に中央公民館が開館し、2年後の昭和50年に書道の講座が開かれたのです。3ヶ月間の講座でしたが、仕事の傍ら参加して、書道の道を拓いてくれた中村先生という方と巡り合ったのです。講座の期間が終了して、もっとやってみたいと思ったものですから、中村先生が開いている墨光書道院へ通いつづけたのです。昭和五十五年の時ですが、中村先生から力がついてきたので、指導者としてスタートしてみないかと声を掛けられ、印田素鶴(いんだそかく)という別号のもと指導者としての道が始まりました。

絵を描くつもりで
     文字を書け

【高木】書道の世界にも資格や流派みたいなものがあるのですか。

【印田】一般的には文部省が定めた検定試験がありますが、書道界には流派もあり、それぞれにおいて資格や認定証を発行していますね。書風はその師匠によって違いますが、原点は中国の大家が残したものです。それに芸術分野になると表現や深みを持った作品づくりとなってきます.よく、私の師匠には「絵を描くつもりで、文字を書け」と言われました。ただ、絵は時間がかかりますがそれに比べたら書は本当に一瞬で一発勝負です。乗っている時、集中している時はいいのですが、技術と精神が大切です。それらを養うために「錬成会」と言うのですが静かな場所を求めて温泉などに出向いて書いたりもしますよ。

個展と
  回顧展

【高木】なるほど.墨や筆なども違うのですか?

【印田】「弘法、筆を選ばず」といいますが、本当の意味は、いくら名人でも道具が悪かったら上手に書けませんよということなんです。一流の書道家は筆、紙、墨まで道具にこだわりますね.そのくらい一瞬の中、微妙なタッチで表現が変化しますし、年月によっても書風が変化しています。ですから、最近の作品だけ展示するものを個展と呼び、長年書き溜めた作品を展示する事を回顧展と呼び、区別されているのです。つまり、個展を開くためには半年ぐらいの中で作品を書き上げないとならないのです。私もいつかは、個展を開きたいと思っているのですが。

地域と生涯学習
  コミュニテイの大切さ

【高木】地域でも指導されているのですか?

【印田】地域では生涯学習の推進委員をしています。市内でブロックごとに、セミナー等を開くのですが、講師として年賀状の書き方などの指導を担当させていただきました。生涯学習は参加されている方々が自分の意志で参加しており、コミュニテイーや思いやりがとても重要です。そこで、いつも「心のあいうえお」ということを大切にしています。それは「あかるいの“あ”」「いきいきの“い”」「うれしそうにの“う”」「えがおでの“え”」「おもいやりの“お”」です。また、学習というのは論語の「学んだ時、これを習う。またよろこばしからずや」から生まれた言葉で、学を「まなぶ」と読みますが古語では“真似る”のことなのです。習は「ならう」と読み“なれる”の古語でもあります。つまり、慣れるために反復することが学習なのです。学習は本来楽しいものですから。

一つのことに集中
   座右の銘は仁者寿

【高木】まさに生涯学習ですね。他に趣味や夢などは?

【印田】ゴルフやボウリングなどずいぶん凝ったことがありますが、体調を崩したことがあって、それからはあまりやっておりません。いろいろな事をやることは幅を広げるのにはいいのかもしれませんが、自分自身あれもこれも手を出したいというタイプではなく、一つのことに集中して打ち込む人間だと思います。座右の銘とでも言いますか、好きな言葉に「仁者寿」(じんしゃはいのちながし)というのがあるのです。これは、人情や思いやりのある人は長生きをするという内容のものです。一つのことに打込んでこの言葉のように生きていきたいと思います。それと、幸手には書道連盟があるのですが、展覧会を開こうと思うたびに、残念ながら市内にはギャラリーがないのです。幸手市は文化都市宣言もしているのですから、もう少し芸術文化に力を入れて欲しいなと夢を抱いています。

【高木】そうですね。では、お友達をご紹介下さい。

【印田】文化団体連合会幹事としてお世話になっておりますカメラの秀栄さんのオーナーである石川光行さんを紹介します。石川さんはご職業もそうですが、文化団体連合会では写真部門で活躍しております。

【高木】ありがとうございました。これからも、各方面でのご活躍、心よりお祈り申し上げます。

(印田さんのご自宅の床の間には「大器晩成」という文字が書かれた掛け軸が掛けられておりました。その文字の力強さと芸術性には、ウンチクのない私にも感じるものが伝わってきました。帰り際に「無事」と書かれた色紙を頂き、言葉の意味を改めて深く考えさせて頂いたひとときでした。)

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